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6月に行われたE3(Electronic Entertainment Expo ロサンゼルスで開かれた大規模なゲーム見本市)は、数多くの魅力的な新作ゲームの発表があり、ファンを沸かせました。その中で、発表されると同時に、古くからのゲームファンに”天地が割れる”程の驚きを与えたゲームがありました。
それが、未完の超大作と呼ばれていた、『シェンムー』です。

クラウドファンディングサイトでギネス記録を叩き出した『シェンムーIII』

上の画像は、海外のゲーム系ニュースサイトの生中継にて『シェンムーIII』が発表された時の様子。音楽が流れ始めただけで、興奮が抑えきれずアナウンサーが立ってはしゃぎまわっています。
『シェンムーIII』は、開発の発表と同時に“Kickstarter(キックスターター)”というクラウドファンディングサイトを利用して、ユーザーからゲーム開発資金を調達する取り組みを行ったことでも注目を浴びました。瞬く間に出資者が殺到し、『最も短時間(1時間42分)で、100万ドルを調達したゲーム』というギネス記録を達成し、ネット上で大きな話題に。
シリーズ第一作目である『シェンムー 一章 横須賀』の発売から14年余り、ゲーム性に魅せられたコアなファンの熱意は、冷める事なく生き続けていたのです。

ところで、ゲームファンがこれほどまでに注目し、愛している『シェンムー』とは、一体どんなゲームなのでしょうか?
本記事では、当時夢中になって遊んだ一ファンが、ゲームの紹介とその想い出を前・後編に分けて書いていきたいと思います。

『シェンムー』ってどんなゲーム?

ゲームメーカーであるセガが開発した『シェンムー 一章 横須賀(以後、シェンムーⅠ)』が発売されたのは、遡る事14年あまり、1999年12月29日(パッケージ版発売日)。当時のゲーム業界ではやっと3D空間の表現が発達し、それを活かしたアクションゲームやRPGが多数作られていました。2015年現在、一大ジャンルとなっている、『3D世界のオープンワールドゲーム』はまだ影も見当たらない状態です。

オープンワールドゲームとは?
舞台となる広大な世界を自由に動き回って探索・攻略できるように設計されたゲーム。
「ステージ」や「ストーリー」といった区切りが少なく、ゲームの進め方はユーザーに極力委ねられている。

『シェンムーⅠ』は、このオープンワールドゲームの概念を持つ作品でした。
新ジャンル、『FREE(Full Reactive Eyes Entertainment)』を謳い、当時、他のゲームでは見られなかった世界を作り出します。
大きな特徴としては…

・1980年代の横須賀の町、香港の街並みを3Dフルポリゴンで再現。
今見ても、細かいモデリングの作り込みには目を見張るものがあります。

・『生活習慣プログラム』と呼ばれる膨大な行動パターンとリアクションを持ち、モーションキャプチャーによってリアルに近い動きを行う住民たち。
しかも、全てフルボイス。恐ろしいパターンの収録です。

・天候・時間が変化し、それに伴って風景も住民も変わる世界。
部分的に変わる作品はありましたが、自然に、時間が流れるように変わる作品は初めてでした。

ストーリーについては、「主人公・芭月涼が父親の仇を討つ為に、父の過去を追い、青銅鏡を巡る冒険に旅立つ」というもので、これ自体は非常にシンプルなものでした。しかしながら、この”冒険の中身”が膨大な自由度を持ち、ユーザーが「自分だけの芭月涼」を楽しむ事ができたのです。

革新的すぎて理解されなかったゲームシステム

プロジェクト・バークレイ。
最新の技術と、一つのゲームセンスが丁度良い具合にバランスする物。
1998年発売の対戦型3D格闘ゲーム『バーチャファイター3』の特典として付属されたディスクで、ゲームクリエイター鈴木裕氏が語った『プロジェクト・バークレイ』なるゲーム。これこそが、後の『シェンムーⅠ』でした。

バーチャファイター3&プロジェクト・バークレイGD(GD=Gigabyte Disk ROM)。バークレイのGDのデザインはゲームに登場するキーアイテムの「鏡」を模して作られている。

1998年と言えば、セガの生産するドリームキャスト(ドリキャス/DC)と、ソニーの生産するPlayStation2(PS2)で、どちらが業界の主流となるか激しいゲーム機戦争があった時代です。そんな中『シェンムーⅠ』は「PS2と張り合える映像を持つ作品だ」と声高に叫ばれて、セガ好きの希望の星として輝いていたのです。
しかしながら、ここで「PS2と張り合えるゲームだ」とならなかったのは、当時『シェンムーⅠ』のゲーム性について誰もよく理解できていなかったからです。

そんな『シェンムーⅠ』の凄さを周知して貰うべく、大規模な発表会が行われ、全国のゲームショップにはゲームの体験版がプレイアブルで設置されました。
しかし、発表会を公聴し、体験版をプレイした人たちの感想は、

「映像が綺麗なチンチロリン(ミニゲーム)をやるだけのゲーム」
「QTE(Quick Time Event)ってタイミング良くボタン押すだけだったLD(レーザーディスク)ゲームの系譜だろ」

QTEとは?
それまではただ見るだけだったゲームのムービーシーンにて、タイミング良くボタンを押す事によって展開が変わるというシステム。

「天候が変わって意味があるのか」

など、ゲーム性を疑問視する声ばかり。
筆者も『技伝授体験版』というタイミングよくボタンを押すミニゲームをプレイし、失敗してトム師匠(ゲームキャラクター)から「キックが遅いねー」と罵倒されまくった時は、「こんなボタンを押すタイミングを競うだけのゲームの何が楽しいんだ・・・?」と疑問を持っていました。

これに対して、制作者の鈴木裕氏は、
「QTEはLD(レーザーディスク)ゲームより早くて、バーチャファイター(3D格闘ゲーム)より遅い」
「天候が変わればゲーム体験も変わる」
「シェンムーは、ゆったり、たっぷり、しっとり (したゲーム)」

という回答をしていました。
QTEに関しては、格闘ゲームほどの反応速度で入力を求められるわけではなく、ムービーシーンに緊張感を持たせるアクセントのようなもので、『バイオハザード4』以降のシリーズなど、今でもいくつかのゲームに採用されています。より重要なのは、「天候の変化で変わる」や、「ゆったり・たっぷり・しっとり」というキーワードで、どこか昭和の香りが残る横須賀の街を、広大にかつ情緒あふれる形でDC上に再現するという、まさに現在の「オープンワールド・ゲーム」の概念を言い表した言葉でした。
筆者が遊んだ体験版は、オープンワールドの一端に過ぎなかったのです。

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